方向感覚

中学生の頃、なんでか忘れたけど先生が「家にビデオデッキのない奴」とか言って手を上げさせたら私ともう一人だけだった。
うちにはファミコンも、マンガを読んだことも、夜のテレビを見る事も何もなかった。
そんなもの無くても死なないし、そんな人はどこにでもいるんでしょう。
あの頃はまだ13か14歳くらいだったんだろうか・・学校に行けばみんな明るく接してくれて楽しかったし、自分にも明るい未来が自動的に来るものだと思っていた・・
そんな家にもある時急にビデオデッキがに登場した。
家族のいない時間になら自分も見ることができる。
テープをどうしたのか記憶がないのですが録画をしました。
最初は別なので2番目はピンカス・ズーカマンのバイオリンとマーク・ナイクルグという作曲家でピアニストのリサイタル、場所はサントリーホールだったのを今でもはっきり覚えています。
バッハのソナタホ長調BWV1016で始まり次にバルトークだったけど、当時の自分にはバルトークは難しすぎ、何か上書きしてしまってバッハしか覚えていない。
それでバッハのBWV1016を毎日毎日何度も見て聴きました。
今、YouTubeでこの曲を探すとピアノはチェンバロのために書かれたことを意識した演奏・・・
この時は現代ピアノでペダルを思い切リ踏んでガンガン鳴らして・・それのどこが何が悪いの?
みたいな感じの豪快な伴奏だったと思う。だからと言って時代物みたいに変にロマンティックになったりもしていなかった。
最初に聴いて刷り込まれたというだけかもしれないけど、あれがよかった。もうテープもないけど、また聴きたいなぁ。
CDも探したけど見つからない・・同じ二人のベートーベンは売っていたんだけど・・
今でも頭の中に焼き付いていてならせば鳴ってくれる。月日も経っているし自分のフィルタがかかってだいぶ違う方向へ偏心したものに変わってしまっているかもしれない。
3楽章のこのあたり、

ヴァイオリンが伴奏に回って、ピアノがホ長調の美しい旋律を悲しく(ホ長調なのに!)弾く部分で、ピアニストが外人がよくやるように首を横に振りながら「こんなに切ないなんて!」みたいなしぐさで弾いていたのが忘れられない。
実際聴こえてくる音楽も悲しみが深すぎて笑顔になってしまっているような忘れられないものだった。
対位法の天才で頑固じじいみたいにも見えるバッハはとんでもないメロディーメーカーでもあると思う。
こんな音楽を作るなんて・・
この部分を耳コピして壊れたエレクトーンで弾いていた記憶が・・弾けてなんかいなかったんだろうな実際は・・
サントリーホールは多分ステージが南側にあって客席に座ってステージを見ているときは南を(実際は南東?)向いているのではないかと思います。
いつも入り口を入って、階段を上るあたりまでは南を向いているつもりでいます。
でもホールに入ってステージを見ると北を向いているような方向感覚に固定されてしまうんです。
30年前、毎日毎日見ていたあのサントリーホールのステージは部屋の北側に置いたTVの中にあった。今でも自分のサントリーホールはあの中に存在し続けてるんだと思う。
頭のおかしい人みたいですが・・
今また改装中らしい・・トイレ広げてくれるかな?・・
コンサートに行けるようにもなったんだし、明るい未来がきてんだろう。