うどんとロマンティック

最近行ってないんですが、少し前に「吉田のうどん」というのが自分の中で流行った。
山梨県富士吉田市付近で昔から食べられている・・的なうどん。細かいところまで明確な定義みたいなのはないと思う。
やたらに腰の強いうどんが煮干しの出汁に入って馬肉がのって・・
普通の民家の玄関を上がると仏壇間みたいなところに通され、台所で作ったうどんが出てきて食べ終わるとお金を払う・・
みたいなのから始まって民家の庭先にプレハブを建ててやっているとか、そこそこのお店のなりでやってるとか・・
皆お昼に食べさせて早々にしまっちゃう夜はやらない・・そんな感じでしょう。
民家のに行ってみたかったけど、異常に混むらしいので庭先のプレハブ的なのに何軒か行きました。

太くて腰のあるうどんが特徴だけど、その入っている出汁は田舎のその辺の家で普段の味噌汁を「あんたもくってきな」といわれて食ったみたいな・・素朴な素朴な味・・・ちゃんとしたお店でこれが出てきたら、え?っと思うかもしれない。
でもそういうつもりで来ているのでこれで大満足。なんかおいしいものを腹いっぱい食わせてもらったような気になって帰る。
素朴の勝利である。
すごく混んでる超絶有名店より、発見に苦労するようなところのが雰囲気的に面白い。
ブルックナーの交響曲第4番変ホ長調は「ロマンティック」なんていう愛称がついていてブルックナー入門みたいな雰囲気もある曲です。自分もそう思ったのか初めてCDを買って来たのはこの曲でした。高校に入ったばかりだったと思う。
ロマンティックなんていうからバラの花みたいな音楽かと思っていましたが、聞いてみると想像していたロマンティックとは全然違う・・
何だか素朴な・・・そのへんに鶏が遊んでいそうな田舎の景色・・・ちょうどこの吉田のうどんみたいな音楽だと思った。
今はもう少し違う印象も感じています。
あの頃、まだブルックナーの音楽がわからずなじめていなかったというのもあると思う。
ちなみにシューマンのピアノ協奏曲はバラの花園だと思っています。
買ったのはこれもワルター・コロンビア響でした・・シリーズになって出ていたものそろえていく感じで。
ブルーノワルターは若いころはブルックナーの音楽が理解できなかったが、ある時大病をし、その後急に目覚めた・・
みたいなことを言っていたと思う。
その目覚めたのがいつ頃なのかは知らないけれど、戦前くらいまでのブルックナーは弟子が勝手に改悪したと悪名名高い「改訂版」による演奏だったんでしょう?ブルックナーのオリジナルじゃなかった・・
ブルックナーの音楽になじめない聴衆やオーケストラ団員にブルックナーを知らしめようと、弟子たちが当時のはやりのスタイルに編曲した・・・ブルックナーは当然嫌だったはずだが・・・人柄的にダメとはいえなかった・・みたいな。
原典版が耳になじんだ私から見ると改訂版のスコアは確かに作者を無視して好き勝手に遊んでしまったようなひどいものにも見えます・・
ある段階で徹底的に否定されたのもうなずける。でもその改訂版と彼らの熱意が、ブルックナー音楽の普及に一役買ったのも一理あるんでしょう?知らないけれど。後ろの時代から単純な批判を投げつけるのもいけないか・・
指揮者の朝比奈隆が本でフルトヴェングラーがいたので挨拶をすると、「ブルックナーをやるなら原典版でやるべきだ」と言われ慌てた。という話を何度もしています。
彼もブルックナーだと思っていたものは改訂版で、当時原典も何も知らなかったんだそうだ。
彼はその後ブルックナー指揮者となっていったんでしょう?
晩年のワルターのロマンティックは改訂版ではなくて基本的にはハース版なのかなと思います。
でも序奏から

このあたりは弦のトレモロとフルートがオクターブ上を歌っていてとても感動的‥だけど楽譜と違う。

きっと改訂版のこのアイディアを取り入れているんですよね。
若いころにブルックナーを知ったのは改訂版でだったんでしょう。
しかしこのスコアもその手前は弦楽器の旋律は2パートの掛け合い、2番はトレモロじゃないとか・・
なれない聴衆にわかりやすく・・というのではなくて面白がってやりすぎてるようにも見える・・
これじゃ怒られちゃうよなぁ・・
この直後にトロンボーンをはじめ金管がわっと出てくるところ・・高校生の頃はにどうにもなじめず違和感を感じだ。
なんだこりゃ?田舎くせーななんて思った。
でもまさにこれがブルックナー特有のオルガン音楽の影響を強く受けたオーケストレーションなんですよね。
スウェルだっけ?柔らかい弱音系のパイプで始まった音楽がふっと止まると・・ストップを引いて鍵盤も変えてでっかい音でジャー!!みたいなの・・・
あの頃はまだオルガンといってもバッハばっかりしか知らなかったしなぁ・・
まぁ、なつかしいなぁ・・
自分から遠いと思っていたこの曲に急に近づいた気がしたことが2度ほどありました。
一度目は15年くらい前。
精神的に疲れ行き詰っていた時、ふと息抜きにこの曲のスコアを遠くの店まで買いに行ったんだった。
訳の分からない巨大な塊に見えていたものがスーッと解けてよく見えるようになったような気がした。
ずっと嫌いだった第2楽章が急に好きになったのは5年くらい前。
我慢ばかりの俺の人生は何なんだとか思ってオーディオに少しお金をかけたとき。
チェロとビオラがずっと暗い歌を歌っていてなんだこれなんて思っていたけれど、暗いんじゃなくて味わい深いいい音楽だと思うようになった。誰にもこびないおっさんの心の歌というか・・
あともう一度くらい何か波が来ればこの曲も本当に大好きになれると思うんです。
聴いてすぐに気に入る音楽もあるけど、30年とか40年かけてその魅力に気付いていく曲があってもいいと思う。
俺の人生にも意味があったみたいじゃないか。