望郷

私の父親は就職を機に故郷を離れ、その後さらに縁があってこの地に来たようだ。
何時頃だったか、故郷に戻って実家を改築し老いた母親と暮らす見積もりを一人大きな声で口に出していたのを覚えています。
何とかなると自分に言い聞かせるようなその言葉は普段聞いたことのない出身地の方言だった。
実際、それはなかなか難しいところがあったと思う。
結局かなうことはなく自分の母親よりも先亡くなってしまった。

私は一度故郷のここを離れ帰るつもりもなかったのですが、訳があって今ここにいます。
訳というのが解決したらよその土地で暮らしてみたいという夢もなくもないけれど・・
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ここにいると毎日富士山が見えます。
あんな山だから時々見とれたりすることもあるけれど、あまりにも身近過ぎて特別な思いを抱いたりする事もない。
全然違う土地に住んだりすると老いたころにもういちど富士山が見たい・・とか思ったりするんだろうか?



ロシア出身のラフマニノフは、革命後祖国を離れヨーロッパやアメリカに住み最後まで帰ることはなかった。
そういう人は結構いたんでしょうか、ハリウッド映画の音楽にラフマニノフみたいなのがたくさんあるのはそういう人たちがあそこで仕事したからと昔どこかで聞いたか読んだような・・
祖国を離れて以降作曲意欲が減退していたみたいですね。
その人が自らこれは自分の最後の大作になるだろうと予言したらしいシンフォニックダンス。
序曲をオーバーチェアなんて言うのは好きじゃないけれど、交響的舞曲はちょっと硬すぎる気もする。機動戦士みたいだ。
第1楽章は軍隊行進曲的な厳しい曲調ですが、中間部はラフマニノフの真骨頂みたいな郷愁をおびたメロディアスな音楽となります。
サックスが歌たりするところが時代を感じさせますが、、わたしが気になるのはやっぱりピアノですよね。

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ピアノがオーケストラの一つの楽器としてあつかわれる音楽はたくさんあります。
ロシアの作曲家はよくオーケストラに組み込んで使いますがどちらかというと音程付き打楽器的な硬い音を提供する仕事をしたりしてることが多いと思う。
軍隊調の主部でもそんなことをやってる。



でもここにでてくるのは歌う弦楽器を美しく包むピアノとしてのピアノ・・
ここはラフマニノフの弾くピアノが聴こえているんだと感じることがある。
ピアノを愛し、ピアノで発想してピアノと生きた作者自身の姿がここに重なてみえるんですね。
生まれ育った故郷の空気や音、水を思う音楽なんじゃないのかなこれ。

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再び軍隊調の音楽を聴いた後、星が降ってきたような場面がくる。
弦楽器がユニゾンで歌うこの歌、チェロにとっては高い音、ヴァイオリンはG線が指定されていて声を心の底から絞りだすような歌が要求されています。
普通とは違う、特別な場面です。

故郷に帰り、森の騒めきや空気に抱かれて眠ろうとしているところ・・を夢見ているみたいだ。

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安心したのか安定した気持ちの中、心音が小さくなりピッチカートとなって消えていく。
全体的に心の休まる箇所があまりない印象のこの曲なんで、ここだけは何か救われている気がします。
かなわなかったけれど、帰りたかったのかもなぁ。



昔、4月、日曜なのに仕事でやる気なく外にでていた時のこと、
近くに大きな工場の独身寮があるのか店先の公衆電話で若い子が電話をかけていた。
相手は多分両親。
「仕事は頑張ってる、歓迎会があってお酒がだいぶ飲めるようになったよ・・・」など近況を一生懸命話す。
話の内容や場所状況から考えて彼は私の父と同じ出身地だろうと思う。若い人は職を求めてみんな遠隔地へ出ていくようなところだ。
相手を変えながらテレホンカードが0になるまで何度も同じ話を繰り返す。
最後は親しい友達なんだろう、無邪気に威張っていたけれど電話が切れると小さく「きれた・・」声が寂しそうだった。
そんな彼もきっと今では立派な親父だろう。
その後地元へ帰ったかな?
そのままあのあたりに家庭を築いたかな?
まだ若いから望郷どころじゃないかな。
時代も変わってそんなことは考えないのかな?

Tag:ラフマニノフ  Trackback:0 comment:6 

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Author:unagi
誰にも迎合できません
2022年11月からピアノ習い始めました

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