火の神

犬と散歩をしていたら富士山が煙に覆われているのが見えました。
麓の大野原で野焼きが行われているところでしょう。
毎年やらないと森になっていっちゃっうんだそうだ。
うさぎかなんかが火に追われて出てくると昔きいたけど、毎年出てくるということは何とか逃げることができてるのかな。
4日間かかって上演されるワーグナーのニーベルンゲンリング、壮大な話の中に炎が重要な役割を持って出てくる場面があります。
炎の正体はローゲという火の神。
初日はヴォータンという神様の親玉みたいなののブレーンとして重要な役割を果たします。
それ以降も要所で登場、もう歌手ではなくて音楽のみでその個性的かつ圧倒的な存在感が描かれる。
第1夜ワルキューレの最終場面。
ヴォータンは神として裏切ったものを許すわけにはいかない、半面親父としての娘への深い想い・・
その葛藤が素晴らしく重く感動的な場面。
ヴォータンはブリュンヒルデから神性を奪い眠らせ、目覚めさせた人間のものとすると宣言する。
怒りに震えるヴォータンではあったが娘の強い気持ちに心が揺らぎその懇願を聞き入れ炎の壁で囲い無数の男から守る事とする。
「この花嫁を手にいれるものは、神である私よりもっと自由でなければならない!」
と語るその言葉はジークフリートの動機(テーマ)の上に乗っかっており、音楽がこの炎を超え娘を手に入れるものが誰なのかを予言する。
その後、愛する娘はもう自分のものではないと悟った親父の切ない別れの言葉は泣ける。
あんなにすごくて怖かった神も、親父だった。
意を決したヴォータンが炎を起こすべく槍で岩山を三回突くと

ローゲ登場。
この半音階で駆けのぼり高い音でワシャワシャ言ってるのがヴァイオリンじゃなくいてヴィオラとチェロなのがポイントでしょう。
ちっちゃいのがすごい速さで跳ね回っているんだけど、ちょっとちりちりの白髪頭って感じがする。
その後の炎が広がっていく音楽が
なんかかわいいのだ。
こんなすごい場面なのに、

可愛い。

その後木管に出てくるこれはいろんなずっとブリュンヒルデを表してきましたが、ここでは炎の向こうで眠るブリュンヒルデを指しています。
炎の奥で眠る娘を前にして、ヴォータンは一人
「我が槍を恐れるものよ、この炎を超えるでないぞ!」とか叫んでいるわけなんだけど、
その言葉は先ほどよりのさらにはっきりとジークフリートのテーマそのもので歌われる。
これはもう予言ではなく強い願いのようにも感じられる・・それはい色々矛盾をはらんでいるのだけど。
金管のユニゾンがジークフリートのテーマを復唱したあとチェロとヴィオラが歌っているのは親父の苦悩と切なさ。
別れのシーンでヴォータンがこの旋律にのせた言葉は「最後のお別れの口付け」。
でも今はもっと広い意味を持っていると思う。
これは泣ける。
しかしここはぶっちゃけ親子以上のものを感じていいんでしょ?
そのほかよく考えるといろんな矛盾が同時進行してもいると思う。
オペラ苦手な私だけどこの30分間弱くらいはいいですね。
昔、祖父が関東大震災のに遭遇した時の話をしてくれたのを思い出しました。
身一つで逃げればいいのに、みんな大きな荷物を持ったためにそこへ火が燃え移り・・
祖父には燃え移らなかったから私が今いるんでしょう。
私がすぐ逃げたくなるのはそのせいか・・全然違うか。
炎は神秘的だけど怖い。
人の手の中でコントロールされている振りをしてくれているうちはいいけれど、
一度暴れだしたらこんなに恐ろしいものはないと思う。
心の中にも小さな灯みたいなものが燈っていて、これが消えたらおしまいだなとかいうな気がします。
その手の話をきくとどこかしらけていたもんだけど、今やけにリアル。
まだ消させないよ頑張ろう。