謎の店

もともと東海道、いまは国道一号線というところ。
一時期ここをよく通っていたのだけど、松並木の向こうに昭和なレストランみたいなものが目についていた。もうやってないのかもな、昔は流行ったのかな・・
ある日嫁さんが言った、電気ついてるよ。
えっ?あそこやってんの?
ネット上で確認してもレビューの一件も見つけらない。
地元の知り合いが時々顔を出すみたいな特殊な状態か?・・とか謎に包まれた状態がしばらく続いていた。
最近、レビューが付いたと嫁さんがいうので見てみると絶賛・・でも日本一とか、やけに説明的な内容とか自演か?なんて。
天気も悪く気分もさえないある日、なぜかあのお店に行って見ようと思った。
車で近づけば営業中の文字・・駐車場には1台の車。
もう覚悟は決まっているのだ後は乗り込むだけ。

子供の頃、こんなお店をよく見かけたような気がする。
一見、立体駐車場みたいだけど高さが足りず突っ込めばフロントガラスから大破すると思う。

このビニール屋根な階段も子供のころどこかで見たような。
さぁいざ・・

私の予想はおばあさんがえー?みたいな感じで・・
入るとすぐにいらっしゃいませの声。
でも全然違う、スマートな感じの男性がスマートな感じで案内してくれた。
もうそれでみんな吹っ飛ぶ。
大丈夫、ここ大丈夫だ。
やっぱり接客って大事なプロの仕事なんだよね。
仕事してんだからプロだろとかそんな次元の話じゃなくて・・
広い店内には家族連れが一組。
孫を見せに来たみたいな。
道路側の大きな窓も印象的だけれど反対側には

雲がかかって見えないけれど・・・
本来なら正面に富士山がドーンと炸裂するはず・・
おかしいよ。
この立地だもんここ有名になっていつも満席になっててもおかしくなさそうだけどなぁ。
まあ、そういう自分も今まで近寄らなかったわけだけど。

この佇まいも昭和な感じ。
周りを見回して・よく見るといろいろくたびれて細かく壊れていたりもするんだけど、でもきちんと掃除がされていて・・
今そう思ってみれば外観の写真も雑草もなくゴミなんか落ちてないし、花がきれいじゃないか。

ちょっとくたびれてるかもしれないこの絨毯を始めいろんなものを見ていたら1970年代か80年代の初め、テレビで熱海や伊東のホテルのCMがバンバン流れていたあの感じを思い出した。
幼いころだけどなんとなく覚えている行って見たかったあそこへ今来たような。
BGMは控えめな音量でショパンが流れてた。
革命とか雨だれとか英雄とかニックネームが付いたようなのがいくつかループして。
そういうところも昭和かもしれませんね。
今はどこ行ってもジャズ流しときゃいいんでしょみたいな感じですかね。
がやがや言ってるところでショパンなんか流されると好きなものに砂かけられたみたいでイライラしてくるのでそれでいいけど。
静かなここではそんなこと思わなかった。
https://www.youtube.com/watch?v=4P63s3Nw3iM
この曲40年近く前にテレビの高級アイスクリームの宣伝で流れていた記憶があります。今でも聴くとあのバニラとチョコのケーキみたいなアイスが頭に浮かぶ。
でもこの曲は優雅なお菓子みたいな音楽なんかでは決してなくて、巨大ブルドーザーが全部なぎ倒してゆく・・みたいなゴーン!ドォー!みたいな音楽だと思うんですよね。
後半ちょっとエレジーみたいなのが出てくるところに人間を感じて・・

メンチカツランチというのを頼んだらこんな感じ。
衣がギシギシしてなくてメンチカツレツというか洋食よりな感じでおいしかった。
嫁さんのチキン照り焼きもでかくてなんかすごい。
よそ行きの格好をした老紳士がまだ連れが来るからとか言いながら入ってくる。
気が付けば4人。
老紳士とおばさん、若い男女。
老紳士が切り出す「多少の話は聞いていますが・・あなたのことは全く知らないので・・」
あっ、娘の彼氏が親父と初対面みたいなのか!?
ちょっと前時代的な・・・そういえばここそういう感じの場所だよなぁ・・
お互い探るようなやり取りで始まったそれは時間とともに打ち解けて盛り上がってた。
お酒はやりますか?みたいな
婚約者を連れてとかじゃないのかもしれないけれど、初対面の若手と人生経験豊富でいろいろ語りたい人が打ち解けてとてもいい場になってた。
なんだかしらないけれど良かったね。

コーヒーもついて。
しっかりした接客でお店の印象はいきなりとてもよくなっちゃって。
料理もおいしいし。
これでこのでかい窓の向こうに富士山が全開だったら・・・
同じような富士の見える丘にあり窓には雄大な富士山・・という店のネット上のレビューは絶賛満載、行ってみても満席・・
でもその実接客も飯もしょぼかった。
ここはしかしなんでいつもこんなに空いてるんだろう?
なんでって自分も今までここに来ようと思わなかったんだから・・やっぱりこの怪しい外観と・・でっかい窓に人影が見えないところかなぁ・・
嫁さんがいいことを言った。
みんな富士山側に座っちゃうから、道路側はあいて人がいないように見えちゃうんじゃない?
だから、いつ見ても誰もいないように見えてるのかな?
最近ネット上には少しずつこの店の好意的なレビューが付き始めたみたいだ。
時代の流れに乗ってこのお店が復活、躍進するといいかなぁ・・
時代から取り残され、実際の良さをみんなにわかってもらえず何か損しているようにも見えるこのお店、
しかしそのこと自体がこのお店の魅力の一つかなのかもしれないなぁ。
そもそも損なんかしてないんだろう。
貴方人生損してますね。みたいなことを言われることがある。
言われて、ああそうだなぁ、俺は間違っていたんだななんて思うわけない。
偉そうになにを上からものを言ってんだこの馬鹿は?と思うだけ。
大きなお世話なんでしょう。

この景色80年代前半ぽいかなと思って・・
クリスマスツリーも光ってた。

こんなところを通って帰る。
あるわけないと思ったところに気に入ったお店を発見できてちょっといい気分。
他人が見ればえ?あんなとこ?とかいうのかもしれないけど関係ない。

買い物に出てみれば街はすごい混雑だ。
私はやっぱりゆっくり静かな方が好きかなぁ。