そんなわけないから思い出したこと

隣というか近くの街は最近観光地化していて素敵な食い物屋なんかもたくさんあると思う。
思うのに、いまだ強い抵抗を感じて行けないことがある。
あれは高校一年の夏休みだったのか、学校の中庭みたいなところに座っていた。
吹奏楽部に入ったはいいけれどいまと全く同じように何か月たってもアンブシャがつかめずまともに音を鳴らすこともできていない。
周囲からの圧力のようなものを感じ耐えかね逃げようとしていた。良くしてくれた先輩に引き留められたのを振り切ったような記憶もかすかに出てくる。
ふとみると目に前の地面が100円玉くらいの大きさで強く明るく照らされている。
足を差し出しその光を自分に重ねれば、神様の力をもらえ・・
いつもならそうするのにこの時そうしなかった。
そんなわけないだろ
いつまでも子供じゃないんだから・・
すぐにいややっぱりと思ったけれどもう光は消えていて二度と戻らなかった。
疑うならだめだという無言の声を聞いたような気もした。
周囲から変な視線を感じるようになりやがて街中から嗚咽を浴びる日々へ突入していったのはその直後からだったので、この出来事が原因なのではないのかと思ったこともあった。
そんなわけないだろあほかというところでしょう。
誰かが鏡か何かで私をからかった?
あの日空は曇りだった気がする。
先日、楽器の先生からエキストラで呼ばれたという演奏会のチケットをいただいた。
団体名を聴けば会場がどこかはすぐにわかる。
そこは私にとって長年近寄ってはいけないしい思い出してもいけない所であった。
当たり前だけれど30年もたてば私を知っている人間がそこにいる訳もないし、いたとしても何か直接的な不具合が起こるなどという事はない。
そんなことあるわけがない。
こんなの傍目には馬鹿の一言でしょう。
先生の「こっちは行きたくなければ無理にはいいですよ」からだいたいどんな状況なのか察はついた。
だけど嫌だから行きませんでしたなんて答えはないだろう。
行ってきた。
昔自分も立ったことのあるステージを見下ろす。
お前もソロをやれと言われてやった記憶はあるのだけれどもう暗黒時代に突入していた私にとってそれは拷問かさらし首みたいな状況であったと思う。ずっと封印してあった記憶はもう干からびていて断片がぽろぽろ零れ落ちる程度でしかないし、それを思い出したくて行った訳ではないのでどうでもいいというか・・
そして、恐れ怯えている不具合が起きることは全くなかった。
そんなの当たり前なはずなんだけど。
といってこれで私はまた新しい一歩を踏み出すことが・・みたいな話があるわけでもない。
思いがけず遭遇した全く別な要素で心を揺さぶられたけれどそれらは今関係ないから。
あの頃何聴いてたかなぁと思って・・
https://www.youtube.com/watch?time_continue=851&v=_M9I-3cRVaI
ブラームスの1番のCDを買ってきた中学の頃はまだ昭和で、街には小さなレコード屋がたくさんありどんな小さな店にもクラシックの棚があった。私には知り始めた世の中が明るく見えていたのを覚えている。
この曲の解説を読むと必ず20代の頃に着手されたが完成と初演は20年以上たった40を過ぎてからというようなことが書いてある。
筆が進まなかったんじゃなく、ベートーベンが築いた特別なジャンルととらえた交響曲を世に出すに値する自分になるのを待ったんでしょうね。
若い作曲家が自分に課した宿題を解決したというか・・ドイツの作曲家として世に出てきた以上こういうの書かなきゃいけないでしょというものへの回答というか・・
素晴らしい音楽だけど、この人が本当の自分を出してくるのはこの後だと思う。
私自身はこの曲を心から好きだと思うようになるのに20年かかった。でも今振り返れば20年なんてあっという間だよな。
30年もあっという間だった。

帰り道に寄ったお店
わっ、タバコ・・
カフェじゃなくて喫茶店だもんね。
リラックスしてタバコを吸うオーナーが見える。

常連さんとか親し気に話すオーナーの声。
うちのケーキは工場で作ったものを出して・・
なんか素敵なお店で、私たちが心を込めて作ったお店ですとか書いてあるからケーキも手作りなのかと勝手に思ってた。
そんなわけないのか。
ここは嫁さんと初めて会った日に来たお店。
自分の中でとっておきの店だったのだけれど、考えてみればここしか知らなかった。
ここを教えてくれたのは高校の時の知り合い。
私の高校後半2年間は悪夢の記憶でしかない。
ドロドロの悪夢に沈んでいく際みな私に向かい俺に近づくな!と罵声を浴びせ威嚇したのに、私を馬鹿にし愚弄しながらも彼は最後まで笑いながら相手にしてくれた。
卒業後にも数回会い、免許を取ったが車に乗せる相手もいないので私を呼んだくらいの話だったと思う。
その後電話の向こうで大学を中退し不本意な生活を送っていると聞き、次の機会もあるだろうくらいに思って終わったのが最後。
あれから四半世紀か。
今更だけどありがとう。
何かを伝えることももうできない。
きっと、うまくやってどこかで元気でいるんだろう。
あれから光の輪は一度も見たことがない。
あたりまえか。
ある時、お前自分でやるんだよという声を聞いた。
そんなわけないだろというところでしょう。
私は聴いてそうかと思えたからいいのだけど。