時代も変わった。

暖かく気持ちのいい日。
嫁さんが最近見つけたパン屋に行こうという。
あそこかぁ・・
昔からの郷の中は狭すぎて車で入れないから手前に置いてこう。
手前ののどかな一体、今は都市計画道路が通り家が建ちスーパーが建ち・・
昔は家どころか道すらなかった。
ここへ来るには笹のトンネルみたいな狭い砂利道を歩くか、田んぼや畑のあぜ道を勝手に歩いて蜂に刺されたり鬼のような農家の親父に追い返され・・

富士山の溶岩流の上に乗っかるこのあたり、子供の頃よくこんな溶岩を目にした。昔の人が開墾しようにもどうにもどかしきれなかった巨大溶岩がそのまま藪山みたいになってて。
ちょっとしか離れていないけどうちの周りにはこういうのないからなんだか懐かしい。
こういうのは宝永噴火なんかよりずっと昔1万年前くらいのものらしい・・こんなの、他人にはそれの何が面白いの?でしょうけどそれはそういうもんだよね。
晴れて明るい日が当たってると何でも綺麗に見えるし気持ちも和らぐね。

この路地は昔未舗装だった。
その先右に曲がってまっすぐ行くと・・
記憶の底の方に折りたたまれていたこの辺りは、何がどう間違ってもお店なんか絶対にあるわけがないしあってはいけないというような場所だ。
なのにあそこに

パン屋ができたというのは冗談じゃなくて本当だった。
昔からあった民家の一部を改装してる。
最近思うけど、SNSで情報を得て人が動く今はこんなあるわけのないようなところにあるという事が逆にお店の武器になると思う。
入り口にはひとりづつお話したいから並んで待ってくださいという注意書き。
窓口でケースに並んだものをとってもらう対面販売みたいなのか・・
嫁さんはなんでもゆっくり選ぶ人なので・・相手のあることだからマイペースじゃまずいだろうとこちらが勝手に焦る。
生い立ちに問題があり過剰に人の表情を読み取ろうとする私はお店の人にはやくしろよ・・を見てしまった気が。
いつもの勘違いだよと言いきかせ、
これ写真撮っていいですか?
はい、ありがとうございます。

きれいだなぁ・・・
そう、まだ早い時間だから・
あそうかぁ・・
お店の人の笑顔を見て終われたので良し。
小学校では給食や掃除の時間にクラシック音楽が毎日流れていた。
クラシック音楽に興味なんかなか・・いや、自分でわかっていなかったけれど今でも脳裏に焼き付き流れるのは好きだったからかもしれない。
毎日聞えてきた何曲かの中に
https://www.youtube.com/watch?v=JoLaBx8WRyk
モーツァルトのホルン協奏曲もあった。
この曲、聞こえた瞬間から虫唾が走るような人もたくさんいるでしょう?
テレビのバラエティー番組みたいなので流れてたから、お茶らけ音楽と思って馬鹿にする人もいるでしょうね。
それでいいんでしょうそんなの人それぞれ。
私は実はモーツァルトは苦手というかあまりな感じなんだけど、でも昔聴いた誰のものかわからないホルンのあの歌が今でも頭に流れる。
そういえば、生まれて初めて自分の大事にしている物と自分をけなされ身の危険を感じたのもこのあたりだ。
世の中みんながみんな自分と同じように感じ考えてくれるわけじゃないんだと知った事件だったわけだけど、40年たった今もまだその衝撃にうろたえることがある。
出かけた帰り、以前見つけた謎のヤギな場所に

看板が出ていた。
やぎを愛でながら飲み食いする・・
のではなく

食べるのはヤギの方みたいだ。
人間用には飲み物の自販機が2台あるだけ。
箱に100円いれて・・
早速駆け寄ってきた若いヤギに、いい歳したおっさんが餌をやって喜ぶ。

ヤギ界にも序列があるらしくちょっと遅れてきた大きなおっさんを怖がって若い2頭は逃げ気味。
お前らわかっとるんかと威嚇するおっさんはさすがベテラン、手に持った藁を上手にとって食べる。
おっさんがあっち行った隙に食らいつく若手の1人も。
だけどもう一人は超絶不器用なのか俺の手まで食っちまうからいてーよ。
おまえ俺だろ?
中学校の部活は始めに入ったものを3年間やり通すのが大原則で転部と言えば脱藩して命を追われる人みたいな絶対的タブーであったのだけど私は2年生の途中位で当初夢にも思わなかった吹奏楽部へ転部するという事になった。
いろんな楽器の中でどれを・・と考えるより前におまえはこれ、と誰もやりたがらない楽器をあてがわれた。
よくある話であのとき別な楽器になんて考えていたこともあったけれど、この歳になり実際挑戦してみて、ほかの楽器をやってもきっと・・と思うに至った。

楽しそうでいいな。
あの小さなパン屋さん、おいしかったからまた行ってみればまた先客がいたしパンはほとんど売れちゃってた。
こんな場所だけどやっぱり繁盛してるのね。時代は変わったな。
パン屋の向こうの垣根は私が生まれて初めて猫が木の幹で爪を研ぐのを見たところだ・・昨日のような超絶リアル感で思い出したけどもう40年前だろう。
その隣に建てられてゆくのを眺め大工に少しあこがれたあの新築の家はもうなく分割され数軒の今風な家が立ち並ぶ。
小学生くらいの子供がいるらしいパン屋のお姉さんは私がこのあたりを歩いていた時にはまだ生まれていなかったんじゃないか?
時代もかわったな。